第9回 理研・京大データ同化研究会

森下喜弘 (理化学研究所 生命システム研究センター)

講演タイトル 器官形成過程のモデリングと定量データ解析
要旨 これまで発生生物学の分野では,分子生物学的アプローチを駆使し,器官形態形 成に必須な遺伝子,あるいは形態異常を引き起こす原因遺伝子を明らかにするこ とに成功してきた.しかし一方で,器官の発生・再生過程において観察される多 細胞集団の立体構造が,どのように自己組織的に形作られるのか,という問いに 関してはほとんど明らかになっていない.この問いに答えるためには,観測され る様々な分子・細胞動態が,発生過程のいつ,どこで,どのように組織の変形・ 力学場に影響を与えるかを明らかにする必要がある.本発表では,器官形態形成 原理の解明を目指して我々が行っている細胞・組織レベルにおける動態解析(計 測,データ解析,数理モデリング)を四肢や前脳発生等の具体的なデータを示し ながら紹介する.
講演スライド TBD

鎌谷研吾 (大阪大学 大学院基礎工学研究科)

講演タイトル データ同化におけるカップリング
要旨 カップリングはマルコフ連鎖の理論的解析の基本的な技術である. 一方,マルコフ連鎖より複雑な従属性を持つモデルには,適切な意味で有効なカップリングを導入することは困難である. 本発表では,複雑な従属性がある状況でもカップリングが実用的に利用されている例として,隠れマルコフモデルにおけるフィルタリング問題やパラメータ推定に対する応用例を紹介する. 本研究はA. Jasra氏,K. J. H. Law氏,Y. Zhou氏との共同研究の内容を含む.
講演スライド TBD

小槻峻司 (理化学研究所 計算科学研究センター, iTHEMS)

講演タイトル EFSO観測インパクト推定を用いた予報を改悪する観測を同化しない「観測選択手法」の探索
要旨 現在の天気予報システムは数多くの観測を同化しており,より良い同化システムの設計には,個々の観測データがどの程度天気予報の改善に寄与しているのか定量化することが重要である. 観測データが予報をどの程度改善したかを測る手法にForecast Sensitivity to Observation (FSO; Langland and Baker 2004)がある. 従来,FSOは随伴モデルを要したが、Kalnay et al. (2012)によりEnKFに拡張された(Ensemble FSO; EFSO). EFSOはアンサンブル予報を使って,個別の観測データを抜いたデータ同化実験を行わずに,それぞれの観測が予報に与えるインパクトを推定する. FSOを通して天気予報で同化された観測を診断すると,個々の観測が予報を改善(改悪)した程度を定量化できる. 興味深いことに、Kotsuki et al. (2017a)が簡易力学モデル(ローレンツモデル)を用いて調査した研究では,予報を改善する観測の割合は観測全体の50%強に過ぎなかった. イギリスやドイツの現業システムでも同様な傾向が報告されており,我々が理化学研究所の全球大気データ同化システムNICAM-LETKFで行った実験でも同様であった. 予報を改善した観測の割合が高々50%強であれば,悪いインパクトを持つ残り50%弱の観測は同化しない方が良いことになる. 本研究ではこの観点から,EFSOを用いて予報を改悪すると診断された観測を同化しない「観測選択手法」について調査した. ローレンツモデルを用いた実験の結果,EFSOによる観測選択手法は,将来時刻の観測情報を間接的に利用していることが分かった. 将来時刻の観測を直接同化するスムーザーと比較すると,観測選択手法による予報の改善は限定的であることが分かった.研究会では,EFSOによる観測選択手法についての最新の研究成果について紹介する.
講演スライド TBD

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